裁判の流れ

1 まず知っておきたいこと

「危険運転致死の疑いで、車を運転していた39歳の男が逮捕されました。」
「東京地方検察庁は○○容疑者を過失運転致死罪で起訴しました」
「初公判で、○○被告は起訴事実を否認しました」
「危険運転致死罪に問われていた○○被告に対し、東京地方裁判所は、懲役12年の実刑判決を言い渡しました」

日頃、このようなニュースを耳にする機会はよくあると思います。
このようなニュースを耳にすることで、国民は「そんなひどい事故が起こったのか」「ああ、あの事故の裁判がようやく始まったのか」「判決は随分軽いな」と、交通事故が起こったことや、その裁判がどうなかったのかを知ることができます。

しかし、このようにニュースになるのは一部の重大事件だけで、実は日本で行われている裁判のほとんどは、ニュースで報じられることはありません。
ほとんどの国民の知らないところで裁判は始まり、進み、終わっています。

ここで注意が必要なのは、交通事故を起こした犯人を処罰するための「刑事裁判」は、その被害者であっても知らない間に始まり、進み、終わってしまうことがあるということです。
これは、にわかには信じがたいことかもしれませんが、事実なのです。

もし、あなたやあなたの家族が交通事故の被害者になってしまったとき、
「犯人にどんな処罰が下されるのかを知りたい」
「ちゃんと捜査を尽くしてほしい」
「できる限り重い処罰をしてほしい」
などと思うのであれば、自ら積極的に行動した方が良いのです。
今の制度の中では、被害者が何も言わなくても「捜査や裁判の進捗状況をちゃんと教えてくれる」「ちゃんと捜査を尽くしてくれる」「ちゃんと処罰をしてくれる」ということは期待できません。

ここでは、交通事故が起こったときから犯人への処罰が決まるまでの流れや、その間に被害者やその家族ができることについてご説明します。

2 交通事故が起こったとき

交通事故が起こり、怪我人や死者が出たときでも、その事故を起こした犯人は、逮捕されることもあれば逮捕されないこともあります。

犯人が逮捕されたときは、警察官や検察官の動きは素早いです。
なぜなら、逮捕から23日間のうちに捜査(※)を一通り終わらせて、裁判にかけるかどうかを決めなければなりません。
※ちなみに「捜査」とは、実況見分や取調べなど、証拠を集める行為の全部を指します。
ですので、この23日間の間に、実況見分や犯人の取調べ、目撃者や被害者からの聴取などを一気に進めます。

他方で、犯人が逮捕されなかったときは、そのような捜査はゆっくり進んでいくことが多いです。
事故から数か月経ったころに、「事故のことで話を聴きたいから警察署に来てください。」と連絡が来ることも多いです。

このように、捜査の進み方は犯人が逮捕されるかされないかで大きく違いますが、どちらにしても被害者やその家族は、少なくとも一度は警察官や検察官に話を聴かれるはずです。
もしあなたが「犯人が処罰されるのかどうかを知りたい」「犯人への処罰がどんなものだったかを知りたい」と思うのであれば、必ず、警察官や検察官に、「捜査の状況や結果を教えてほしい」と伝えましょう。
そのようにしないと、「犯人がどうなったかと思って警察に連絡してみたら、既に不起訴処分が決まっていた。」ということにもなりかねません。

もう一つ注意しておきたいのは、この警察や検察が捜査をしている段階で、捜査や犯人への処罰に対する“真剣さ”がない場合があることです。

「この程度の事故で実刑なんてあり得ない。」
※実刑=刑務所に行くこと

家族を亡くした被害者遺族に対し、面と向かってこのようなことを言ってしまう心無い警察官や検察官が一定数存在します。
このとき、そう言われた被害者遺族は、悔しいながらも「そういうものなのか」「警察がそう言うならしょうがない」と思ってしまいがちです。

しかし、もし捜査の進み方や処分の方針に対して不満や不信感があったときは、迷わずに「そんなのおかしい」と声を挙げてください。
「被害者が何を言っても刑事処分は変わらない」などと考えている人が、法専門家の中にも少なくありません。
しかし、被害者が声を挙げたことで犯人の処分方針が変わった、という例は枚挙に暇がありません。それは簡単なことではないかもしれませんが、確実に存在します。

そのようなときは、一人で頑張ろうとせず、被害者支援に精通した弁護士に相談することが良いでしょう。

3 裁判(刑事裁判)

警察や検察が捜査を一通り終えると、犯人の処分は次の3つのどれかに決まります。

①不起訴処分
②罰金刑
③裁判
の3つのどれかです(例外もあります)。

まず「①不起訴処分」は、犯人に対する処分は無し、ということです。
交通事故で人を傷つけておいて処分無し、というのは納得しがたいかもしれませんが、犯人と被害者(遺族)との間で示談が成立した場合など、不起訴処分になることは珍しくありません。

ただ、もし犯人の不起訴処分に納得がいかないときは、なぜ不起訴処分になったのか、その理由を教えてほしいと警察官や検察官に伝えましょう。
場合によっては、不起訴処分が正しい判断だったのかどうかを審査してくれる「検察審査会」というところがあります(裁判所の建物の中にあります。)ので、そこに審査をお願いするということも考えられます。

次に「②罰金」もその名のとおりですが、罰金を支払うという刑罰です。
ここで注意が必要なのは、この「罰金」は犯人が国に支払うもので、被害者に対して支払われるものではないということです。
犯人が罰金刑に処せられても、被害者の手元には1円も入りません。

犯人が逮捕されていたときは、この「①不起訴処分」か「②罰金」のときはその処分が決まった日に釈放されます。

最後に「③裁判」について説明します。
正式には、検察官が「起訴」という手続をとることを意味します。

この「起訴」がされると、犯人の処罰を公開の法廷で決めることになります。

しかし、この「起訴」がされてすぐに裁判が開かれるわけではありません。
通常、「起訴」がされてから1か月後くらいに、第一回の裁判が開かれます。

他方、「危険運転致死」などの重大な犯罪では、「裁判員裁判」という一般市民が参加する形で行われるため、「起訴」から第一回の裁判まで半年から1年くらいかかります。

このように、「裁判員裁判」かどうかで、「起訴」された後の裁判のスケジュールは大きく変わるので注意が必要です。

また、「危険運転」とは異なる「過失運転致死」などの犯罪で、かつ犯人が全ての嫌疑を認めているときには、第一回目の裁判で審理を全て終わらせ、第二回目の裁判では判決を言い渡すだけ、ということも珍しくありません。

このように、犯人が「認め」ているかどうかも、裁判のスケジュールに大きく影響します。

このような刑事裁判の中で、被害者や被害者の家族ができることは、
・裁判を見る
・裁判で自分の意見を言う
・裁判で犯人に質問できる
などです(ほかにもできることはあります。)。

また、このことを弁護士(犯人の弁護士とは違う、自分が依頼した弁護士)にお願いすることもできます。
そのときは、
・代わりに裁判を見て来てもらう
・代わりに自分の意見を言ってもらう
・代わりに犯人に質問してもらう
ということができますし、もちろん弁護士と一緒に行くこともできます。
弁護士と一緒に裁判に行き、一緒に裁判を見るだけでも構いませんし、犯人への質問は弁護士にしてもらい、自分の意見だけは自分で言う、といった役割分担もできます。
弁護士に依頼しつつ、意見も質問も全部自分でやる、ということもできます。
このあたりは、よく弁護士と相談して決めましょう。

被害者やその家族がこのように裁判に関わることを「被害者参加」といいますが、このようなことを一つでもしたいならば、早めに警察官や検察官に「被害者参加したい」と言っておきましょう。すでに弁護士をお願いしているときは、その弁護士に言えば足ります。

裁判によっては「起訴」から「第一回」まで1か月程度しかありませんので、できるだけ早い時期に「被害者参加したい」と伝え、検察官から裁判に出される証拠を見せてもらい、「どんな意見を言おうか」「犯人にどんな質問をしようか」と考えておきましょう。

ちなみに、「被害者参加したい」と言った後で、「やっぱり止めます」というもOKです。
少しでも刑事裁判が気になるのであれば、「被害者参加したい」と言っておいて損はないです。
裁判に参加したときは、交通費も、あとから請求すれば支払ってもらえます。

刑事裁判の最後には、犯人に対する処罰が言い渡されます(判決)。
このとき、自分の思ったとおりの、希望どおりの処罰が下されれば良いですが、残念ながらそうではないときもあります。

そういうときには、検察官が「控訴」という手続をとることで、「高等裁判所」というところでもう一度裁判が開かれることになります。
ただ、その「控訴」をするかどうかは検察官が決めることで、被害者やその家族が自ら「控訴」を決めるということはできません。

ですので、もし犯人に対する処罰に納得がいかなければ、検察官に対して「控訴してほしい」と積極的に言いましょう。
必ず検察官がそれに応じてくれるとは言えませんが、被害者やその家族の熱意というのは、しっかりと伝えれば検察官も考慮してくれます。

なお、この「控訴」は検察官だけではなく、犯人側もできます。
どちらか、または両方が控訴したときに高等裁判所で開かれる裁判にも、被害者やその家族は「被害者参加」することができますので、参加を希望するときはやはり検察官に言いましょう。

4 民事裁判について

ここまでは犯人への処罰を決める「刑事裁判」についてご説明しました。
しかし、交通事故が起こったときには、もう一つの裁判があります。
それが、加害者にお金を支払ってもらうための「民事裁判」です。

この民事裁判は、刑事裁判とは違い、勝手には始まったり進んだりすることはありません。
むしろ、自分で起こさなければなりません。

交通事故の被害に遭ったとき、加害者側がちゃんと任意保険に加入していれば、ほとんどのケースでは保険会社から賠償金を支払ってもらうことができます。

しかし、保険会社の提示する額に納得がいかないときや、過失割合などについて話がまとまらないときなどは、民事裁判を起こさなければなりません。

もし民事裁判を起こすときは、弁護士にお願いした方が良いでしょう。
現在(2020年10月時点)では、自動車保険に「弁護士特約」というのが付いていることが多く、弁護士の費用は保険で支払えることも多いです。

5 最後に

ここまで、刑事裁判や民事裁判についてご説明してきました。
ところどころに「弁護士」が出てきますが、よく疑問に思われることとして、
「弁護士はいつからお願いするのが良いか」
ということがあります。

結論としては、「早い方が良い」です。
交通事故の被害に遭ったとき、その直後から弁護士ができることはたくさんあります。

また逆に、遅くても良いのです。
刑事裁判の判決が軽すぎて納得できない、というタイミングで弁護士に相談しても良いのです。そこからでも弁護士にできることがあるかもしれません。

いつ、どのような状況であっても、弁護士への相談や依頼を躊躇する必要はありません。

※この文章は、あえて業界用語や正式な名称を使わずに書いています。

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